Tamagawa cirmon at night

cirmonが書くブログです。

ローンについて

 私は大学サークルで知り合った同じ学科の先輩の家に、家賃を半分払って住まわせてもらっていた時期があった(私はこの期間を「世田谷時代」と呼んでいる)。穏やかで他人の生活に干渉し物申すような性格の人ではなかったが、一つだけよく私に言っていたことがあった。

 

「ローンだけは組んじゃいけないよ」

 

 ローン。クレジットカード会社に支払いを一旦肩代わりしてもらい、複数回に分けてそのお金を返済していく決済方法である。車や住宅など、数十・百万円もするような大きな買い物をするときに用いられる決済方法のイメージだったが、当時の私はクレジットカードを契約していなかったため、頭では理解していたつもりでもその言葉を内面化するには至らなかった。

 

 そう、つまり私は世田谷を離れてから人生で初めてのローンを組んだのである。買ったのは...ギターである。

 

 当時私はレコードショップでのアルバイトを始めて数か月、店で取り扱う音楽ジャンルに詳しくなりたいという思いから、先輩スタッフに勧められたジャズ漫画「BLUE GIANT」(著:石塚真一)を読んでいた。作中で主人公の兄が、まだ高校生で高価な楽器を買えない主人公の弟に、36か月のローンを組んで店で最上級のテナーサックスをプレゼントするのである。その姿に感化されてしまった私は早速楽器屋に赴き、一年のローンを組んでギターを買ってしまったのである。

 

 一か月で飽きた。飽きというよりは、ギターそのものに魅力を感じられなくなってしまった。生活の中で一日中他のことにわき目も振らず楽器を触っていられればいいのだが、人間それだけでは生きてゆけない。生活のほうが忙しくなり、買った直後から徐々に楽器に触れる時間が少なくなっていった。楽器には触らずとも、毎月の支払いはやってくる。支払いによって生活が困窮するほどお金には困ってはいないが、使いもしないものにお金を払っていると次第に馬鹿馬鹿しくもなってくる。毎日の生活に必要な利便性のあるもので組んでいたら多少感じ方もちがったであろうが、趣味嗜好の品となるといよいよ困ったものである。使いもしないものに自分のお金を払っていると、そのものへの魅力は、次第に嫌悪の対象へと姿を変えるのである。ものに労働させられる、主従逆転である。

 

 私はそこで、逆にお金をためて同じ値段・モノを買った場合はどんな物の捉え方になるかを考えてみた。お金を貯める場合、それを買うまで目当てのモノに思いを馳せながら、実物を手中に収めるその日のために努力したり、時には他の物を我慢する日々を過ごす。そうして長い道のりの先でついに手にしたモノは、これまでの努力に日々、募った思いを満身にうけて迎えられるのである。そうやって長い期間それに向けて努力を注げるものであるならば、早々飽きるようなものではない。そのため、長くそのモノを慈しみながら使用していけるのである。

 

 高い授業料だが、このことを身をもって実感できたことは、今後の資金繰りに大いに役立つだろう。何よりも「分割手数料」がしれっと上乗せされていた時のあの落胆のような感情は二度と感じたくないという思いが芽生えた。今後の人生ではローンで買うのではなくしっかりとお金をためて買おう。そしてこの一件で、ためてモノを買うことの良さ・理由を逆に知ることができたのだ。

 

トホホ...

 

P.S:ローンを組んだことは「BLUE GIANT」のせいだというつもりは全く毛頭ございません。むしろとても面白い漫画なのでおすすめです。