Tamagawa cirmon at night

cirmonが書くブログです。

路地裏の世界

 一本わき道にそれると、そこは大通りとは全く違う時間が流れていたりする。

 

 大学のレポートの息抜きに散歩へ繰り出した。普段はあまり行かない駅の向こう側を探索してみることにした。この街にきてはや一年経とうとしている。大学の授業もアルバイトも入らない週一の休みの日にこの街の飲食店を夕飯に訪れて開拓しよう。そんな期待を抱いてやってきたものの、コロナの状況下、気になる店は数多く発見しているが、どれも行く気にはなれずにいる。(あの店もそのうち...)という店を横目に何件か通り、駅の向こう側へと歩いていく。

 

 駅に近づくと、飲食店が軒を連ね華やかな電飾が灯る街になるが、駅を通り過ぎ反対側に出ると、また閑静な住宅街になる。この街はの住宅は、一軒家もアパートも半々くらいの割合で建っている。新しい家も多いが、古びた木造の一軒家もたまに見かけ、先が気になる路地もそこそこある。

 

 車通りの多い通りを歩いていると、ふとマンションと一軒家の間の細い路地が気になり足を踏み入れてみた。先が見えないと気になる。進んでみると昔ながらの電気屋?のような看板の建物があった。そこで道は終わっており、案外行き止まりは近かった。

 「電気屋…行き止まりか…」引き返そうかと思ったとき、

 

ザザッ!ザザッ!

 

突然右から乾いた落ち葉がこすれる音が聞こえた。日も暮れ電灯も灯る遅い夕方、おばあさんが落ち葉を集めていた。それまで音も人気も全く感じなかったため驚いた。通りでは車が走るすぐそばの路地では、古びた電気屋が佇む寂寥たる緩やかな時間の流れがあることに、たった数メートルに時空の隔たりの大きさを感じた。ぼやいていたのを聞かれただろうか。聞かれたところで何も問題はないが、そそくさとその路地を後にした。

 

 また元の通りに戻り進むと、またもや気になる路地を見つける。先ほどのより狭くないが入ってみる。ちょうど杖をついたおばあさんがゆっくりとその路地から出てくるところだった。そのおばあさんとすれ違い奥に進むと、またもや行き止まり。駐車場とアパートの階段があるだけの小さい空間だった。これ以上進む先がないかと周りを見渡し、何もないことがわかり引き返した。すると、先ほどすれ違ったおばあさんが立っており「誰かお尋ねですか?」と声をかけてくれた。散歩で気になったので通りかかのだと伝え、おばあさんの気づかいに感謝しその路地を後にした。行き止まり故にあまり客人は多くないのだろうか。散歩でこの路地を訪れたと聞いて、おばあさんは少し嬉しそうに笑っていた。

 

 その後もしばらく散歩を続けたが、人生何が起こるかわからないなぁ、という思いが先ほどのおばあさんと言葉を交わしたことで浮かんできた。一年前の自分は、この街に来て、あのおばあさんと言葉を交わすことがあると誰が予想していただろうか。あの人はどんな人生を経てあそこに暮らし、今どんな生活をしていて、そんな暮らしの中に、ひょっこりと散歩で路地に舞い込んできた私と言葉を交わしたのである。ほんの数秒の出来事だが、あの場で言葉を交わすに至るまでの人生を想像してみると、あの一瞬の人生の交わりが貴いものに思えてくる。

 

 路地裏の数秒から考えがいささか飛躍しすぎた気がする。だが散歩は日常ではありえなかった出来事へ、いつも生活している街であっても誘ってくれる。だから散歩はやめられん。

 

 民家のあいだにポツンと営んでいるパン屋を見つけ、今度買いにこうと決めて家に帰った。